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55.U. R. アナンタムールティ『バーラティプラ』U. R. Ananthamurthy, Bharathipura, translated from Kannada by Sushhela Punitha, published by Oxford India Paperbacks 2012.

ura+001_convert.jpgカルナタカの文豪U. R. アナンタムールティの
二作目の小説『バーラティプラ』は
そのタイトルの名前をもつ南インドの門前町を舞台にしている
小説のヒーローは 新月の祭りの日
ホーレーヤル(不可触民)をヒンドゥー寺院へ入れさせようとする
正面からみるとこれは不可触民小説だ
しかし 主題から派生する挿話が豊かに膨らむ
小説『バーラティプラ』は 
第一作『サムスカーラ』に比較して
遙かに立体的な社会性をおび
アナンタムールティは絶妙な筆さばきは
ヒンドゥーイズムに対する批判・否定の視点と
その最高に洗練された姿への愛着・執着を 同時に描く
それは真実 人を酔わせ 覚醒させる


   アナンタムールティは、『サムスカーラ(葬儀)』(原著1965年刊)において、南インドにおけるバラモンの極度の洗練(不浄への忌避)と、その規範がひび割れ流出してゆく姿を、さまざまなアレゴリーとメタファーを駆使して描いた。それは、僕にとっては息をのむような読書であった。アーチャーリヤ(導師)の不可触民との交情と共食は、幻想的な至高体験ようである。本当にあったようでもあり、実は幻であったのかも知れないようにも思える。それに反して著者の二作目の小説である『バーラティプラ』(原著1973年刊)は、ずっと現実的で、バーラティプラという街の社会を語る。『サムスカーラ』のアーチャーリヤは、アグラハラ(バラモン居住村)の狭い生活とヒンドゥーの聖典以外に何も知らない。それに比較すると『バーラティプラ』の主人公のジャグナンタは、英国留学の経験をもち、サルトルの実存主義やアンガージュマンの観念にも触れているのだ。アーチャーリヤは不可触民の女の魅惑に抗することはできず、最大の破戒を至高体験と交換する。それに比べるとジャグナンタは留学中からのガールフレンドがいて、部屋の清掃人のホーラティ(不可触民の女)の性的な挑発も受け流すことができる。

   裕福で上位バラモンの主人公ジャグナンタは、新月の祭りに日に、ホーレーヤル(不可触民達)を寺院に入れ、神の祟りなどないことを明らかにしようとする。物語は、不可触民による守旧的なヒンドゥーイズムに対する挑戦、迷信の破壊といった社会改革を扱う。ホーレーヤルのヒンドゥー寺院への侵入(!)が、神の怒りならぬ司祭の発狂と涜神行為へ置き換わるところに僕は唸ってしまうが、この『バーラティプラ』は、そのメインストリームよりもそこから派生する挿話が実に豊かだ。つぎつぎに挿話がくりだされ、バーラティプラというカルナタカ州にある門前町の姿、そこに生きる人々が明らかになってゆく。さらに、それら挿話が絡みあって謎が謎をよび、あるいは思わぬ回答が導かれてくる。たとえば、主人公は、パンディットの嫁の豊潤な肉体を見て欲望を感じつつ彼女の解放を願う。「彼女のような女が、解放され変革を享受できなければ意味がない」と。しかし、彼女の突然の死は、あまりに唐突で戸惑うばかりなのだが、実は別の挿話によって(近親姦についての街の噂) によって説明される。

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U. R. アナンタムールティ 
1932年カルナタカ州シモガ近郊に生まれる
幼くしてサンスクリットを学びマイソール大学で文学修士号を取得
英国バーミンガム大学で博士号取得
政治的にはBJP(インド人民党)への反対勢力の一角であるようだ

   アナンタムールティは、この小説においてヒンドゥー教の内部からの崩壊・流出を明らかにする。また、ホーレーヤル(不可触民達)の地位向上の先頭に立つ。しかし、この小説が、それら変革の大義を高く掲げる時にあっても、決してプロパガンダ小説に堕すことはない。つまり、批判・否定されるべき南インドのヒンドゥーイズムをアナンタムールティは、分厚く、深い愛情をもって語る。また、ホーレーヤルについても彼らを虐げられた者たちと言う以上に、彼らの独自なライフスタイルや彼らとのタッチのタブーについてぎりぎりのところで書くのだ。
   ヒンドゥーイズムに対する批判・否定の視点と、その最高に洗練された姿への執着をアナンタムールティは同時に描くことができる。それが真実すごいと僕は思う。

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August Party

Author:August Party
元気な南アジアの作家達をともに発掘してゆきましょう。気分でその他のジャンルも取りあげたい。
画、舟越直木作“微笑む少年”2009年

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